双頭の悪魔(有栖川有栖)感想

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書籍情報

           
タイトル双頭の悪魔
著者有栖川 有栖
出版社東京創元社
発売日1999年04月
商品説明四国山中に孤立する芸術家の村へ行ったまま戻らないマリア。英都大学推理研の一行は大雨のなか村への潜入を図るが、ほどなく橋が濁流に呑まれて交通が途絶。川の両側に分断された江神・マリアと、望月・織田・アリスーー双方が殺人事件に巻き込まれ、各各の真相究明が始まる。読者への挑戦が三度添えられた、犯人当ての限界に挑む大作。
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目次

作品紹介

まず、著者が書いた同シリーズ「月光ゲーム」「孤島パズル」を読んでいないと、正直マリアやらアリスやらと不思議な名前ばかりでやや状況が察しづらいかも知れないが、彼らは普通の人間であって別にコードネームで呼び合っている訳でもなく、一応作品上での本名だと言うことを先に紹介しておこう。

ただ、作品自体は、本作後書きで著者が語っているように、過去作を読んでいなくても楽しめるように書かれているので、これから読んでも問題なし。

どうやら著者としては「シリーズものだけど、どれから読んでも楽しめる」という点を大事にしているらしく(後書きからもそのことが窺える)、実際のところ私自身シリーズ二作目である「孤島パズル」を読んでから一作目の「月光ゲーム」を読んでいるが、特に支障はなく読めているので、著者のもくろみは思い通りに果たされていると思う。

さて、作品についてだが、この作品は徹底的にフーダニット(犯人は誰だい?)作品である。

そして面白いのは、完全に行き来ができなくなっていて且つ、互いに電話などの連絡初段が絶たれているところ。この状態で引用にある通り、アリス側のキャラクタとマリア側のキャラクタたちがそれぞれ殺人事件に巻き込まれてしまうのだ。

予め触れておくが、前提として橋を境に分断された二つのグループがもう一方へ移ることはできない。という事は当然、それぞれの殺人事件には別々の犯人がいることになる。そして著者は本作中において、この二つの殺人事件の犯人は”誰か”について読者への挑戦を行っている。

「どうやったか」「なぜやったか」という追求と比べると、「誰がやったか」は非常にシンプルな問題提起であると思うし、登場人物の中から怪しげな人を思い浮かべるのは誰にだって容易にできることだ。多くの人はあれこれ想像しながら楽しく読めるのではないだろうか。

感想(少しネタバレあり)

とにかく作品自体が長くボリュミー。だが、別々の事件をそれぞれしっかり描いた上で読者に「第三の謎」を提示したあたりは流石と言ったところで、最後まで読めば、この長さも許容できるほどの面白さがあるし、グダグタ感もない。

ここであまり詳しく語ることはしないが、双方の事件においての犯人はなんとなく読めた自分も最後の謎については予想外。

読者としては「なぜ犯行に及んだか」が一番気になるし、推測しやすい部分であると思うが、まんまと一杯食わされた感じだ。読者が「終わる」と思ったタイミングで「終わらない」作品であるという印象だ。

キャラクターの作りについても相変わらず個性豊かで上手に思う。特に作中に出てくる飄々とした詩人なんかは誰の目にも魅力的に映るんじゃないだろうか。このキャラクタにおいては、後の作品でも登場して欲しいと思うくらい個人的にツボだった。

これを一日で読み切るにはかなりの時間を要することになるだろうが、一日で読み切りたくなる面白さを持つ作品だし、読み終えればきっと満足感は得られるはず。是非、時間がある時に一気に読んで欲しい作品だ。

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やまぐろ
システムエンジニア
SESで業務アプリケーション開発、エンドユーザ向け機能などの開発に携わっている文系(経営学)卒エンジニア。
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